職場で殴られたので、その場で110番しました

——会社も先輩も止めてきましたが、通報しました

このページの内容

1. 結論

この記事でいちばん言いたいのは、手続きの話ではありません。

110番は、その場ですぐしました。そこは迷ってはいけません。 分かれ目になるのは、そのあとの「被害届を出すかどうか」です。ここも迷う時間はありません。

警察からは「明日まで待ちます」と言われました。 私は「待っても、被害届を出すことは決定事項です。変わりません」と伝えました。

そして会社関係の人からは、ほぼ例外なく止められました。

ただし、「出さなければ何か優遇する」という話は一切ありませんでした。 金を渡すとも、待遇を良くするとも言われていません。 何も差し出されていないのに、出さない理由がありませんでした。

そして順番については、こう考えていました。

「刑事にするか」は、あとで取り返しがつかない。証拠が消えるから。 あとから「やっておけばよかった」と思っても、その時にはほぼ無理だと思います。

「民事をやるか」は、時効の期間内なら何年後でも自分の好きなときに決められた。 刑事事件で起訴されたという証拠が、確定しているからです。 この公的な記録が、何年もあとまで効き続けました。

2. 私の件では、会社からも周囲からも止められました

止めてきた人たちは、悪人ではありません。会社にとって、社内の暴行が事件になることは 純粋に不利益なので、止めるのが合理的なだけです。利害が違うだけで、悪意ではない。

ただ、それは私の利害とは一致していませんでした。 だから、私の決断が変わることはありませんでした。

私が言ったこと

警察には「厳罰を望みます」と伝えました。被害届でも、そう言いました。

処分を軽くしてほしいと思う理由が自分の側に無いなら、そう言い切ったほうがいいと思います。 迷いのある言い方をすると、それがそのまま処分に反映されます。

通報しなくてもいいライン(私が考える唯一の例外)

相場よりかなり高い金額での示談を、相手のほうから申し出てきて、 それが実際に自分の口座に振り込まれた場合。

条件が2つあります。

  1. 「振り込まれた場合」です。約束された場合ではありません。
  2. 「相手のほうから」です。こちらから示談を持ちかけてはいけません。

2について補足します。示談は、本来は加害者側がやるものです。 起訴されないために、加害者がお金を払って告訴や処罰の希望を取り下げてもらう。 これは加害者の防御手段であって、被害者が使う道具ではありません。

被害者の側から「示談にしませんか」と持ちかけると、 内容によっては、ゆすり・たかりに限りなく近づいてしまう場合があると思います。 (私は法律家ではないので、これは私の判断です。)

だから私は、示談を持ちかけていません。待ってもいません。通報しました。

それ以外は、通報していいと思います。とくに次は解決ではありません。

暴行罪は、侮辱罪よりずっと簡単です

私は誹謗中傷(侮辱罪)でも刑事をやりました。手間がまったく違いました。

侮辱罪 暴行罪
親告罪か 親告罪(被害者の告訴が必要) 非親告罪
告訴状 自分で作る必要がある 要らない
罪の要件の判断 公然性・特定性を自分で検討する必要がある 考える必要がない
犯人 誰か分からない(そこから始まる) 目の前にいる

暴行罪は非親告罪です。告訴がなくても捜査され、起訴されえます。 だから、自分で告訴状を作る必要も、要件に当てはまるかを自分で考える必要もありません。

ただし、法律上そうだというだけです。 被害者が何も言わなければ、警察が自分から立件することは、実際にはまずありません。 被害届は、被害者が「捜査してほしい」と伝えるための、いちばん普通の手段です。 (口頭で届け出れば、警察官が聴き取りながら書類を作ります。)

私がやったのは「110番する」「被害届を出す」「厳罰を望みますと言う」の3つだけです。

誹謗中傷のほうは、書き込みを見つけて、要件を検討して、告訴状を書いて、 犯人が分からないまま提出する——という作業が全部ありました。 それに比べれば、これは簡単です。(→ 誹謗中傷の記録

迷って通報しなかった人を、何人か見てきました

私が見てきた範囲では、大抵、後から後悔していました。

理由は単純で、あとからやろうとしても、もう証拠がないからです。

時間が経ってから「実はあのとき殴られた」と言い出しても、 「そんな事実はなかった」と言われたら、それまでです。目撃者の記憶も薄れます。

私にとって、その場で110番したことの意味は、処罰ではありませんでした。証拠を作ることでした。 警察が来て、現場検証をして、記録が残る。この記録が、何年もあとまで効き続けました。

3. 実際どうだったか(時系列)

事件の前にあったこと

配属された頃から、相手の気性が荒いという話は周囲から聞いていました。 辞めていった人たちとの間にもトラブルが絶えなかった、と。

早い時期に、相手が別の人に物を投げているのを見ています。 そのうち、私の同僚も被害に遭うようになりました。蹴られたことも何度もあります。

以前、同僚が上司に相談したことがあります。そこから話が上に行き、 相手に口頭で指導が入りました。一時期は落ち着きました。結局、時間がたてば元通りでした。

この履歴は、決定打にはなりません。 ただ、後の民事で、背景の事実として使いました。

当日

「俺が言っておく」を受け入れること自体は、悪くありません。 社内で言ってもらったうえで、警察にも通報する。両方やって構わないからです。

危ないのは、それを受け入れて、警察への通報をしなかった場合です。 そうなっていたら、この件は社内の話で終わっていました。

私の場合は、その時点ですでに通報してあったので、ちゃんと事件になりました。

警察が来るまでの1時間

主任と現場責任者は、それぞれ関係各所に電話をしていました。 相手は私から距離を取る位置に待機させられていました。

翌日

警察から電話。「被害届を出しますか」と聞かれました。出すと答えました。 会社にも、被害届を出す旨を伝えました。

2日後

警察署へ出向いて、被害届を提出しました。 併せて事実確認と、再現写真の撮影をしました。

再現写真は警察が撮ります。自分でやることは、聞かれたことに正確に答えるだけです。

ここから、待つだけになります

被害届を出したあと、私は何もしていません。捜査は警察がやります。

結果 — 紙で来ます

届いたのは、「様式第2号の2(略式命令請求)」という通知書でした。本文はこれだけです。

◯◯(被疑者名)に対する 暴行 事件(事件番号 ◯◯)は、◯年◯月◯日、 ◯◯簡易裁判所に起訴(略式命令請求)し、同月◯日、同裁判所において、 10万円の罰金に処する略式命令があり、確定したので通知します。

この紙が、のちに民事の証拠になります。(訴状の添付書類に入れました。)

私の件は、誹謗中傷のときと同じく略式命令でした。 裁判所に行くことはなく、書類だけで終わっています。

もう1通 — 相手の住所を教えてもらう

この通知書には、相手の住所は書かれていません。名前と罪名と結果だけです。 それでは民事ができません。

だから、しばらく経ってから検察庁に電話しました。言い方は侮辱罪のときと同じです。

「民事にしたいので、相手方の住所を通知する書面をください」

この理由でないと、教えてもらえません。被害者に他人の個人情報を渡す正当な理由が、 他にないからです。

そして、住所をもらう前に一段階あります。

  1. 誓約書が郵送されてきます
  2. 署名して、身分確認のための本人確認書類の写し(私は運転免許証)を同封して返送します
  3. そのあとで、住所が書かれた通知書が届きます

届いた2通目は、こういう形式でした。

◯◯(被告人名)に対する 暴行 事件(事件番号 ◯◯)について、 下記のとおり被告人住居を通知します。 記 ◯◯県◯◯市◯◯

1通目(結果の通知)から2通目(住所の通知)まで、私の場合は7か月以上空いています。 急ぐ必要がなかったので放っておいただけですが、この2通は別物だと知らないと、 「1通もらったから民事に行ける」と思って詰まります。

4. つまずいた点(他のサイトに書いていないところ)

通知書は、請求しないと来ません

これは侮辱罪のときとまったく同じでした。

警察は「処理が終わりました」と教えてくれます。でも、結果は教えてくれません。 どうなったかを紙でもらうには、自分で検察に請求します。

請求しなければ、相手がどうなったのか、一生分かりません。 そして民事をやるなら、この紙が無くてもできます。 ただ、あったほうが確実に有利だと私は思います。

いちばん危ないのは、会社からの「悪いようにはしない」

私はすでに刑事事件を1件やっていたので、迷いませんでした。 でも、普通はそうではないと思います。

「俺があいつに強く言っておいてやる」 「被害届を出さなければ、悪いようにはしない」

こう言われたら、出さない人も多いのではないでしょうか。

私は、会社の人を信用していません。 そして「悪いようにはしない」と言われたところで、そのあとの自分の待遇が 保証されるわけではありません。約束した本人が異動することもあります。

だから私は、出したほうがいいと思っています。(これは私の考えです。)

陳述書は、会社に言われて書いたものを使い回しました

もともとは、会社の賞罰会議で必要だから提出してくれと言われて作ったものです。 正直、仕方なく書きました。

ただ、そのとき時系列や背景まで書いていたので、 3年以上あとの民事で、そのまま参考資料として使えました。

書いたのは、事件当日のことだけではありません。

  1. 配属時から周囲がどう言っていたか
  2. 自分と同僚が、以前から被害に遭っていたこと
  3. 社内で相談し、指導が入り、それでも元通りになったこと
  4. だから通報した、という理由

3が重要です。「いきなり警察を呼んだ」のではなく「社内で試して、効かなかった」という 順番が、文書として残ります。

5. 民事は、自分の好きなときにやればいい

刑事が終わったのは、事件と同じ年の夏です。民事の請求書を送ったのは、その3年以上あとでした。

急いでいません。やろうと思ったときに、やっただけです。

なぜ私は待てたのか

刑事は待てませんでした。証拠が消えるからです。 民事は待てました。証拠がもう確定していたからです。

刑事事件になり、起訴され、罰金の略式命令が出た。この事実が紙で手元にありました。 つまり私の件では、「殴った/殴っていない」という争いは、もう終わっていたということです。

だから民事に残っていた仕事は、金額が相場どおりかどうかを話すことだけでした。

もし私が刑事をやらずに、いきなり民事だけをやっていたら、 やった/やっていないの水掛け論になっていたと思います。 素人の私には、それを覆せる材料がありませんでした。

私の場合、いちばん効いたのは証拠でした。「刑事にできる証拠」です。 起訴されたという通知書が、そのまま民事の証拠になりました。 これで民事は、だいぶ楽になりました。

時効 — 5年あることは、最初から分かっていました

急いでいなかったのは、時効まで余裕があると知っていたからです。 刑事が終わった直後は少し疲れていましたし、私生活も忙しい時期でした。 3年ほど経って時間ができたので、やることにした。それだけです。

暴行は身体を害する不法行為なので、私が確認した時点では5年のほうが適用されました。 だから、3年以上寝かせても間に合っています。

ただし改正前だったら、3年で間に合っていませんでした。 それと、5年は「損害と加害者を知ったときから」です。自分の件がどこから数えるのかは、 必ず自分で確認してください。「何年でも待てる」ではありません。

3年以上空けたことには、金銭的な利点もありました

遅延損害金です。

不法行為の損害賠償は、不法行為の時点から遅滞になるとされているので、 事件の日から支払済みまでの利息を上乗せして請求できます。

法定利率は年3%でした(民法404条)。 この利率は変動制です。今いくらかは、必ず公式の情報で確認してください。

つまり、寝かせた期間はそのまま上乗せになります。 急いで請求しても、待ってから請求しても、元本は変わりません。

やったこと(3ステップ)

1. 慰謝料等の請求通知書を、内容証明で送る

示談の申し入れではありません。「これだけの慰謝料を払ってください」という請求です。

内容証明にする理由は、「送った/届いていない」を潰すためと、日付が公的に残るためです。 のちに訴状へ「◯月◯日に通知書を送ったが応答がない」と書くとき、この日付が効きます。

⚠️ 内容証明には書式のルールがあります。知らずに書くと窓口で突き返されます。

書き方 1行の字数 1枚の行数
縦書き 20字以内 26行以内
横書き ① 20字以内 26行以内
横書き ② 26字以内 20行以内
横書き ③ 13字以内 40行以内

句読点・かっこも1字に数えます。 このページの下のほうに、私が実際に使った書面を、個人情報を伏せた形で置いておきます。

(なお、ここで相手がすんなり払う可能性も、ゼロではありません。払われたらそこで終わりです。 これが「まず60万円で請求する」ことの、もう一つの意味です。後述します。)

2. 督促状を、また内容証明で送る(3週間後)

わざと時期をずらして2通出しています。 これで「1回送っただけ」ではなく「期限を切って2回請求したのに、無視され続けている」 という立て付けになります。

3. 少額訴訟

2通送って、ずっと無視されました。 だから予告どおり、裁判所にお願いしますという形にしました。

いきなり訴えたのではありません。「話し合いを試みたが、相手が一切応じなかった」という事実が、 書面と日付で残っています。

なぜ60万円だったのか — 少額訴訟の上限だから

これは適当に決めた金額ではありません。

少額訴訟で請求できる上限が60万円なので、そこに合わせました。 理由は2つです。

  1. あとから減らすことはできても、増やすことはできないと思ったから
  2. 民事に進む前に、相手が言い値を払う可能性があるから
  3. その時点で、慰謝料の相場を正確には把握していなかったから

払われたら、そこで終わりです。 だから最初の請求は、通せる範囲でいちばん高く置くのが合理的だと考えました。

少額訴訟という制度について

私の場合、相手には弁護士が付きました。 それでも通常訴訟には移されず、1回の期日で終わりました。

これは、たぶん自然なことだと思っています。

少額訴訟は、原告にも被告にもメリットがある制度だからです。

原告 被告
期間 1日で終わる 1日で終わる
上限 どう転んでも60万円が上限

被告の側から見れば、負けても上限が決まっているうえに、長引かない。 通常訴訟に移して長期戦にするほうが、弁護士費用も時間もかかります。 わざわざ移す理由がありません。

ただし、移すかどうかは相手が決めます。これは被告の権利です。 「少額訴訟なら必ず1日で終わる」とは思わないでください。

訴状に書いたこと

事件名は「慰謝料請求事件」。手書きの定型用紙で出せます。

請求の趣旨:

請求の原因(枠の中に手書きで4文だけ):

  1. いつ・誰が・何をしたか(事件当日、職場で、顔を殴られた)
  2. 刑事でどうなったか(簡裁に起訴・略式命令が確定した。その後も直接謝罪に来なかった
  3. だから精神的苦痛を負った
  4. 通知書と督促状を送ったが、誠意ある連絡も支払もない

添付書類: 検察庁からの通知書(2種類)/慰謝料請求通知書/督促状/陳述書/ 取り寄せた刑事事件記録の写し

4文です。長く書く必要はありませんでした。 事実と日付だけを、順番に並べれば足ります。

相手には弁護士が付き、全面的に争ってきました

期日の10日前に、被告代理人弁護士の名前で答弁書が届きました。 内容は「原告の請求を棄却する」「訴訟費用は原告の負担とする」——つまり全面的な争いです。

反論の中身は、大きく2つでした。

  1. 「原告は会社の手順どおりに作業していなかった」(事件の原因はそちらにある、という主張)
  2. 「被告は事件当日、原告に直接謝罪している」(謝ったのに受け入れなかった、という主張)

2は想定外でした。 事件当日に、上司に言わされる形での謝罪はありました。 ただ私は、あれを謝罪として受け取れないと考えていたので、そう主張しました。

ここで効いたのが、刑事の通知書です。 「殴った/殴っていない」はもう争えないので、相手も暴行の事実そのものは認めています。 だから争点は慰謝料の額だけに絞られました。

少額訴訟は1回で終わるので、当日までに出し切る必要があります

証拠も主張も、期日までに双方が把握している状態にしておく必要があります。 当日に新しいものを出しても、間に合いません。

だから私は、相手方の答弁書が届いたその日のうちに、反論の書面を作りました。 裁判所と相手方の両方に、FAXで送っています。

それが結果に影響したのかは、私には分かりません。 ただ、1回で終わる手続きなので、できることは全部やっておきました。

結果 — その日のうちに判決が出ました

期日は、訴状提出からおよそ2か月後。私は出頭し、相手方は出頭しませんでした (答弁書は提出済みなので、陳述したものとして扱われます)。

その場で裁判官から、こういう趣旨のことを言われました。

相場は10万円です。 このままだと、あなたは50万円負けて、相手は10万円負けたことになります。 裁判費用も、負けた金額が多いほうが払います。 おすすめは、今ここで10万円にすることです。

二つ返事で10万円に変更しました。(正式には「請求の減縮」といいます。) 民事は相場の話になる、と最初から聞いていたからです。

ただし、裁判費用については補足が要ります。 減縮したので、判決は「訴訟費用は被告の負担」となりました。 それでも実際には、私が払った印紙代と郵券は戻ってきていません。 理由はあとで書きます(→「訴訟費用は被告の負担」と判決に書いてあるのに、戻ってきません)。

そしてその日のうちに、判決が言い渡されました。

判決の理由には、こう書かれていました(要旨)。

謝罪について — ここが実際の争点になりました

私は、謝罪を受けたと思っていません。 相手は「当日その場で謝った」「その後も電話をかけたが応答がなかった」と主張しました。

裁判所の判断は、こうでした。

原告が、被告の主張する謝罪を、一部でも謝罪として受け入れたことを 認めるに足りる証拠は提出されていない。

つまり、「謝った」と言うだけでは足りないということです。

ここから先は完全に私の素人考えですが、この件を通してこう思うようになりました。

事件のあと、後日、菓子折りを持って家に来て「申し訳ありませんでした」と謝る。 しかも、それを証明してくれる人が同席している。一部始終を動画で撮ってある。 ——これを受け入れてしまうと、この材料が消えます。

逆に、もし自分が加害者の立場になったら、絶対にそれをやると思います。 そのほうが民事にならない可能性は上がると思うからです。

結果を正直に書きます

金額
最初に請求した額 60万円
判決で認められた額 10万円(+事件当日からの年3%の遅延損害金)

6分の1です。

これを隠すつもりはありません。むしろ、ここが読者にとっていちばん役に立つ数字だと思います。

「誹謗中傷 慰謝料 相場」「訴訟は割に合うのか」で検索している人が知りたいのは、 弁護士事務所のページに書いてある相場ではなく、実際にいくらになったのかだからです。

なぜ私に守秘義務がないのか

私は示談をしていません。

示談書にサインしていませんし、和解もしていません。判決まで行きました。 守秘義務の条項がある書面に署名した事実がないので、こうして書けます。

そのうえで、相手を特定できる情報は一切出していません。 守秘義務があろうとなかろうと、そこは同じです。

他人を特定できる形で事件のことを書けば、今度は自分が名誉毀損の被疑者になりえます。 私は、そちら側を1件やった人間です。どういう要件で立件されるかを知っています。

だから、プライバシーに関わることは書きません。 守秘義務の有無とは関係のない、別の話です。

示談は「早く終わらせる」代わりに「二度と話せなくなる」取引でもあります。 示談書には、たいてい「第三者に口外しない」という条項が入ります。 どちらが正解ということはありません。取引だと知らずにサインするのが最悪です。

6. 費用と期間の実額

期間 —— 動いている時間より、待っている時間のほうが圧倒的に長い

これがいちばん知りたい情報だと思うので、全部出します。

段階 期間 自分が動いたか
事件当日 → 110番 その場 動いた
事件当日 → 被害届の提出 2日 動いた
被害届 → 警察から「処理完了」の連絡 約4か月半 待つだけ
起訴 → 略式命令 5日 待つだけ
略式命令 → 通知書を請求 → 手元に届く 数日 動いた(請求しないと来ない)
結果の通知書 → 相手の住所の通知書 7か月以上 待つだけ(自分の都合で放置)
刑事の終了 → 民事の請求通知書 3年以上 自分の都合(時効は5年)
請求通知書 → 督促状 3週間 動いた(書面1枚)
督促状 → 訴状提出 約3週間 動いた(書面1枚)
訴状提出 → 期日呼出状 20日 待つだけ
期日の10日前 → 相手方の答弁書が届く 待つだけ
訴状提出 → 判決 約2か月 法廷に行った1日だけ
判決 → 入金 10日 待つだけ

刑事で自分が動いたのは、たった2日です。 民事で自分が動いたのは、書面を作った数日と、法廷に行った1日だけです。

それ以外は全部、待っているだけでした。

手続きが「大変そう」に見えるのは、期間が長いからです。 でも長いのは待ち時間であって、作業時間ではありません。 合計しても、実働は1週間もありません。

費用(民事)

⚠️ 先に大事なことを書きます。この部分の手順は、私がやったあとで制度が変わりました。

2026年5月21日から、民事裁判手続のデジタル化が始まりました。

このページを読んでいる人の多くは、代理人を立てない本人訴訟だと思います。 「印紙も切手ももう要らない」と単純には言い切れません。 必ず、出す予定の裁判所に、今の納め方と金額を直接確認してください。 (下の「参考リンク」に公式ページを置いてあります。)

以下は、制度が変わる前に私がやったときの記録です。

以下、当時の実額です。

項目 金額
慰謝料請求通知書(内容証明) 1,650円
督促状(内容証明) 約1,650円
収入印紙(訴額60万円ぶん) 6,000円
予納郵便切手(原告1名・被告1名) 6,000円
刑事事件記録の謄写(民事の資料用) 3,378円
合計 約18,700円

当時、訴状を出すときに払うのは、収入印紙と郵便切手の2種類でした。

つまり、最初から10万円で訴えていれば印紙が5,000円安く済みました。

それでも60万円にしたのは、請求通知書・督促状で60万円と書いてしまっているからです。 そこで急に10万円に下げると、書面どうしの整合性が取れません。 金額の一貫性が崩れるほうが、裁判官の心証としては悪いのではないかと考えました。 5,000円で買える整合性だと思えば、安いと思います。

郵便切手は「予納」です。あくまで郵送に使うための預け入れなので、 使わなかった分は返ってきます。だから実質の負担は、表の金額より少ないはずです。 (私も返ってきましたが、いくら返ってきたかは覚えていません。)

金額について、正直に書いておきます。 数字は当時の書類から写しています。記憶ではありません。 ただし制度も金額も変わります。この記事の数字は 「その年に、その裁判所で、この金額だった」以上のことは意味しません。

回収できました。判決の10日後です

判決の10日後、被告本人の名前で、振り込まれました。

弁護士を通してでもなく、督促もしていません。判決が出たら、すぐに払われました。

入ってきたのは、111,753円です。

元本10万円に、事件当日から入金日までの遅延損害金(年3%)が乗った額です。 3年以上寝かせたぶんが、そのまま上乗せになっています。

払われなかった場合の準備もしていました

訴状で「仮執行の宣言」を求めていました。 仮執行の宣言が付いた判決なら、確定を待たずに強制執行へ進める場合があります。 払われなければ、そこから差押えの手続きに入るつもりでした。

相手の財産についても、差押えの見込みがあるかは調べていました。

結果的に使わずに済みましたが、「払われなかったら次はこれ」まで決めてありました。 判決を取るところまでで止まると、紙が1枚増えただけで終わります。

3年以上、2通の内容証明を完全に無視していた相手が、判決が出た途端に10日で払いました。 これが「判決」という紙の力だと思います。

ただし、判決で「訴訟費用は被告の負担」となっても、 印紙代や郵券は自動的には戻ってきません。 理由は、このすぐ下に書いています。

差し引きの実額

金額
入ってきた額(元本10万円+遅延損害金) +111,753円
内容証明 ×2 −約3,300円
収入印紙 −6,000円
予納郵便切手(余りは返還されるので実質はもっと少ない) −6,000円+返還分
刑事記録の謄写 −3,378円
弁護士への相談(1時間・1万円) −10,000円
差し引き +83,000円ほど(郵券の返還分だけプラス)

約8万3千円の黒字です。

民事は、動き出してから入金まで約4か月でした。 そのうち実際に手を動かしたのは、書面を作った数日と、法廷に行った1日だけです。

刑事が終わってから民事を始めるまで3年以上空いていますが、 それは時効まで余裕があったので、私が動かなかっただけです。 手続きに4年かかるという話ではありません。

「訴訟費用は被告の負担」と判決に書いてあるのに、戻ってきません

私は、印紙6,000円と郵券6,000円を自腹のままにしています。

判決には、はっきり「訴訟費用は被告の負担とする」と書いてあります。 最終的に請求した10万円は、全額認められました。 それなのに、なぜ戻ってこないのか——私はしばらく、ここが分かっていませんでした。

調べたら、理由がありました。知らないと必ずつまずくところなので、書いておきます。

1. 判決は「誰が負担するか」しか決めていません

金額は決めていません。「被告の負担とする」は割合を決めた文であって、 いくら払えという文ではありません。

2. だから、自動的には戻ってきません

戻してもらうには、別の手続きが要ります。 「訴訟費用額確定処分」というものを、 第一審の裁判所書記官に申し立てます(民事訴訟法71条1項)。

申立書と、費用の内訳を書いた計算書を出す。相手が意見を出す。書記官が額を決める。 その決定が出てはじめて、相手に請求できるようになります。

3. 実務では、やらない人が多いようです

手間のわりに金額が小さいからです。 私も、結果的にやっていません。12,000円を取り戻すために、また書面を作って郵送して、 相手の反論を待って……というのは、割に合わないと判断しました。

4. そもそも「訴訟費用」に弁護士費用は入りません

ここも誤解しやすいところです。 訴訟費用は法律で範囲が決まっていて(印紙・郵便費用・証人の日当など)、 弁護士費用は原則として含まれません。

「勝てば弁護士費用も相手持ち」とはならない、ということです。

だから、実際にはこう考えるのが正確だと思います。

印紙と郵券は「勝てば戻るお金」ではなく、「取り戻すのに手間がかかるお金」。 最初から必要経費として計算しておくほうが、判断を間違えません。

刑事は0円です

警察も検察も、費用を請求してきません。 唯一かかったのは、検察庁の記録を取り寄せた3,378円で、これも民事のための任意の支出です。

謄写した記録は、めちゃくちゃ分厚いです。(白黒27枚+カラー18枚) 中身は捜査の記録なので、民事で使う部分はごく一部でした。 それでも取り寄せたのは、手元に無い状態で法廷に行きたくなかったからです。 3,378円で「材料は全部持っている」状態が買えるなら、私は安いと思います。

遠くの相手でも、自分の地元の裁判所に出せました

相手は別の県に住んでいます。それでも私は、自分の住まいの近くの簡易裁判所に訴状を出し、 そこで判決をもらいました。

慰謝料のような金銭の支払いを求める請求は、債権者(請求する側)の住所地の裁判所にも 管轄が認められる場合があるとされています。

ただし、必ずそうなるとは限りません。 どこに出せるかは、必ず裁判所の窓口で確認してください。 遠方の相手を地元で訴えられるかどうかは、費用にも負担にも直結します。

7. 実際に使った書面(雛形)

私が実際に送ったものを、個人情報を伏せて置いておきます。 そのまま使えるものではありませんが、「こんなに短くていいのか」を確かめるには足ります。

テキストでも置いてあります。メモ帳でもWordでも開けます。

Word形式では配っていません。 .docx にはファイルを作った人の名前が中に残るためです。

これは、私が自分の事件のために作った書面を、一般的な形に直したものです。 特定の事件に当てはまることを保証するものではありません。 そのまま出せる完成品にはしていないので、写しながら、自分の事実で埋めてください。

① 慰謝料等請求通知書

        暴行罪に対する慰謝料等請求通知書

                              ◯年◯月◯日

  甲(請求する側)
    住所  〒◯◯◯-◯◯◯◯  ◯◯◯◯
    氏名  ◯◯ ◯◯  印
    生年月日  ◯年◯月◯日
    年齢  ◯歳

  乙(請求される側)
    住所  〒◯◯◯-◯◯◯◯  ◯◯◯◯
    氏名  ◯◯ ◯◯
    生年月日  ◯年◯月◯日
    年齢  ◯歳
    職業  ◯◯

               請求の趣旨

 1  乙は甲に対して精神的苦痛を与えた事を認める。

 2  暴行行為は刑法上で不法行為に当たり、
    民法710条において慰謝料請求権を認めている。
    乙は甲に対して慰謝料として民法709条、710条に基づき
    金◯◯万円を一括して、本通知書到着後20日以内に、
    甲が指定する下記口座へ振り込みにより支払う。
    振り込みによる手数料は乙の負担とする。

    【振込先銀行口座】
      ◯◯銀行 ◯◯支店
      普通口座 ◯◯◯◯◯◯◯
      口座名義 ◯◯ ◯◯

 3  乙は甲といかなる理由があろうと今後一切接触してはならない。

書くときのポイント

実際に送った書面には、この続きがありました

私が送った通知書には、上の続きにこういう条項も入れていました。

入れた理由は、相手が払いやすいようにするためです。

「払えば全部終わる」「外に漏らさない」と書いてあれば、相手にとっては払う動機になります。 払わせることが目的だったので、そのための条項です。

結果として、相手は払いませんでした。

誤解のないように書いておきます。

もし相手がこれに署名して払っていたとしても、この記録は書けました。 相手を特定できる情報は、もともと出さないからです。 守秘義務があろうとなかろうと、他人のプライバシーに関わることを外に出さないのは当然です。

つまりあの条項は、「もともと自分がやらないこと」を、 相手が安心して払えるように書面へ入れた、というのが正確なところです。

上の雛形からは、この部分を外してあります。 入れるかどうかは、「相手に払わせたいか」で決めてください。

② 督促状

        暴行罪に対する慰謝料等請求の督促状

                              ◯年◯月◯日
  (甲・乙の表示は通知書と同じ)

                 趣旨

  ◯年◯月◯日付にて請求した慰謝料、金◯◯万円が
  一ヶ月以上経過した本日に至るまで振り込みされていない。
  20日以上猶予があったにもかかわらず責任のある連絡もない。
  至急◯月◯日までに振り込むことを請求する。

  尚、◯月◯日までに入金が確認できない場合、
  法的手続きに移行する。

この1通が、訴状の骨になります。

予告したことは、実行するつもりがあるときだけ書いてください。

本当に請求できると考えているなら、「応じないなら法的手続きに移る」と伝えること自体は、 正当な権利の行使です。私もそう考えて書きました。

逆に、やる気がないのに書けば、それはただの脅し文句になります。 相手を怖がらせて金を出させるための言葉になった時点で、性質が変わります。

私は、書いたとおりに訴訟を起こしました。

③ 訴状(少額訴訟)

用紙は裁判所にあります。手書きで埋められます。私が書いたのは、たった4文です。

  ◯年◯月◯日、当時同じ職場で業務を行っていた被告は、
  会社の手順通りに業務を行った原告に対し激高し原告の顔を殴った。

  ◯◯簡易裁判所に起訴(略式命令請求)し、略式命令が確定した後も
  直接謝罪に来ることはなかった。

  このような不法行為によって原告は傷つき、強い精神的苦痛を負った。

  原告は被告に対し◯月◯日に慰謝料請求通知書、◯月◯日に督促状を
  送付したが被告から誠意ある連絡もなく、支払をしない。

  民法710条に基づいて慰謝料◯◯万円を請求します。

請求の趣旨(金額の欄)には、忘れずにこれを入れてください。

遅延損害金を判決で認めてもらうには、請求の趣旨に書いておく必要があります。 私は訴状に書いて請求したので、事件当日からの分を認めてもらえました。 3年以上寝かせていたので、ここで1万円以上変わっています。

書面どうしの日付は、必ず突き合わせてください。 私は訴状に書いた通知書の日付を、実際の日付と取り違えて書いていました。 結果には影響しませんでしたが、指摘されたら答えようがありません。

8. 弁護士について — 1時間1万円で、何を聞いたか

誹謗中傷のときは、結果的に要りませんでした。この暴行事件では使いました。 ただし依頼ではなく、有料相談を1回だけです。

前の失敗から、順番を変えました

誹謗中傷のときの私は、何も分からないまま、いちばん最初に弁護士に相談しました。 そこで言われたのが「発信者情報開示請求には、60万円かかります」です。

その後、私は刑事告訴という道で、0円で犯人にたどり着いています。 (詳しくは → 誹謗中傷の記録

この暴行事件では、同じことをしませんでした。

  1. 先に、自分で全部調べた
  2. 先に、書類を全部揃えた
  3. そのうえで、質問を1つに絞って、1時間1万円の相談を1回だけ買った

聞き方も決めていました。

「こういうことがあって、こういう書類が準備できています。 一人でやろうと思うんですが、どうですか」

答えを聞きに行ったのではありません。自分の答えに、穴がないかを見てもらいに行きました。

返ってきた答え

代理人を引き受けます、という話にはなりませんでした。言われたのは、この2つです。

「弁護士を使うと、赤字になりますよ」

「ご自身でやってみるのも、全然いいと思います」

これは冷たい回答ではありません。むしろ、いちばん誠実な回答だと思っています。

私が払った1万円は、「自分でやっていい」と専門家に言ってもらうための代金でした。 素人がいちばん怖いのは、「そもそも土俵に上がれていないのではないか」という不安です。 その不安だけを潰すために使うなら、安いと思います。

材料を全部揃えてから、質問を1つに絞って行ったから、1時間で足りました。 揃える前に行っていたら、1時間では終わっていません。

9. 最後に —— 私にとって民事訴訟は「お金をくれ」という手続きでした

ここまで読んで、もっと熱い話を期待していた人がいるかもしれません。 最後に、私がやってみて突きつけられた、いちばんドライな現実を書きます。

謝らせる手続きではありませんでした

「謝ってほしい」ではなく、「お金をくれ」。 やってみたら、それだけでした。それ以上でも、それ以下でもありませんでした。

だから私は途中で、「お金が欲しいわけじゃないなら、これはやる意味がない」と、 自分を納得させる必要がありました。

(これは全部、私の主観です。)

相手が苦しんだかどうかは、分かりません

刑事をやって、3年後に民事をやりました。 その間、相手にどれだけストレスがあったのかは、正直、私には分かりません。

「これで相手が苦しんでいるはずだ」と思いたかった時期もありました。 でも、そこは分からないし、民事において重要でもありませんでした。

結局は、正当な権利としてお金をもらう。それだけのことでした。

怒りを外に置かなければ、私は進めませんでした

腹わたが煮えくり返って、どうしようもなくなる時期もありました。

でも、日本の法は、私が思っていたよりずっとドライなプロセスでした。 感情ではなく、相場で額が決まりました。 実際、私の裁判で裁判官から言われたのは「相場は10万円です」の一言です。

私がやったのは、その怒りを一旦、外に置くことでした。 仕事モードに切り替えて、手順として進める。 私の場合は、それがいちばんの近道でした。

引き際も、私にとっては手順のうちでした

法廷で「相場は10万円です」と言われたとき、私は二つ返事で下げました。

あそこで「でも」「納得できない」と粘っていても、意味はありません。 それは感情の問題であって、粘ったところで相場が変わるわけではないからです。

むしろそのままなら、60万円のうち10万円しか認められなかった側になっていました。 下げたから「請求は全部理由がある」という判決になりました。

二つ返事で下げられたのは、「怒りを外に置いて、手順として進める」と先に決めていたからです。

私にとっては、相場が示された瞬間が、その裁判のゴールでした。 そこで手を止めることまで含めて、全部が手順でした。

私がやったのは、結局この5つだけです。

これを、感情抜きで淡々とやれたかどうか。それだけだったと思います。

そして最初に書いたことに戻ります。

いちばん長かったのは、待っている時間でした。 そして、いちばん短くしなければならないのは、 「通報するかどうか」を決める時間でした。

その場で決めないと、現行犯ではなくなります。 迷いは感情の側にありました。手順の側には、迷うところがありませんでした。

参考リンク(一次情報)

この記事は、私一人の体験です。制度は変わります。 手続きを実際にやるときは、必ず下の公式情報で今の扱いを確認してください。

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お願い(免責)

このページを読んで、私に相談しようとすることはやめてください。 私は弁護士資格を持っていないので、他人の件を扱うことは違法になります。 個別のご相談には一切応じることができません。

ここに書いてあるのは、私一人のケースで、実際に起きたことです。 手続きの扱いは、事案や担当者、事件が起きてからの時間経過、証拠の状況などによって変わります。 一般論としては読まないでください。